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抑えきれない言葉とか。
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道端に

たくさん、たくさん、潰れた蝉が


こうやって、死ぬんだよ。

ひと夏を越したわたしたちは。
2
少し離れた場所で、シリーの彼女はつい先日まで友達だった男とデートをしていた。
それは普通の成り行きだった。
何故ならば、彼女とその男はお互いが好きだったからだ。
シリーが絵に夢中で彼女をほうっておいたことも重なって、そういう状況を生み出したのだろう。

シリーは嫉妬深かった。
嫉妬深いあまり、泥沼のせいでぐちゃぐちゃになったかろうじて電源の入る携帯電話を握りしめ、相手の男に電話をかけたのだった。
「お前がしたこと、解っているのか馬鹿野郎」
できるだけ感情的に冷静に尋ねる。
受話器越しの男の声はどこか人を馬鹿にしたように軽く、含み笑いを込めて言った。
「馬鹿はどっちだ、シリー。だって君たちは現に今すれ違っているし、だいたい、君はガキっぽいんだ」


彼女が、自分の馬鹿だと思う最低な男ランキング上位の男に惚れたという事実もまた、シリーのハートを抉った。

「みんな君たち二人のことをオカシイと思っているよ。だって一緒にいるために相手を束縛するなんて、本当に気持ちが分かってないからじゃないか」



シリーは自信を失った。
今まで絵を失わなければ生きていけると言っていた自分が、大嘘吐きだと思った。
彼女はシリーにとって、空気であり、水であり、三本目の脚だった。
独りではできない何もかもが、彼女と一緒になら簡単にかつ愉快に乗り越えることができた。

さっきの泥沼を乗り越えた自分が奇跡だった。
振り返ってみたが、その瞬間、沼に潜む鰐の大顎を見つけてしまった。


足が、無いじゃないか


シリーが失ったのは三本目の脚だけじゃなかったのだ。
シリーは絶望した。
そして憎しみと復讐という闇に捕らわれ始めた。

あぁ、そうさ
往生際の悪い俺のせいで


彼女を苦しめているのだ。
そして、自分も


しかしまだ手離せない理由があった。
シリーは、彼女を失い生きていくということへの自信を、ほんのひとかけらも用意していなかったのだ。


もう次の泥沼で鰐が大顎をめいっぱい開いて待ちかまえているというのに、進まなければならないのに、シリーは重大なことに気付いてしまった。
そう、鏡に映る自分は、みたこともないほどに汚れきって悪魔のような笑みを浮かべ、歯並びの揃わない歯列を、まるで飼い主の命令に従わない子犬たちのように口の中で遊ばせていた。
不気味だった。


これが本来の自分なのだろうか。

何故、今こんなにも冷静なのだろうか。
1
仮に彼の名前を“シリー”としよう。
これから話すであろう物語が、いかにも愚かでつまらなくてしかし退屈凌ぎであることは間違いない紙一重な物語であって、その主人公であればそれもまた紙一重であるべきだからだ。


シリーは絵描きとしては未熟であったが、自らが絵描きだと信じ込まなければならない立場にいた。
というのも、絵描きでなければ何者でもないし存在できる場所も無いという切羽詰まった状況にあった。
誰でも自らの存在意義がなくなるとなれば、最後のひとつ(それがたとえ何ひとつすがりつけないようなガラクタだったとしてもだ)に全身全霊を賭けるものだろう。
最初からそのすがりつけるものとやらが無かったとしたらそれはそれでいいのだ。
何かを失った直後でビビりまくっている臆病者よりは強いし、そういうやつが例えばジャンケンみたいな理不尽な争いで勝つ。

そんなわけで、とにかく、シリーは自分自身というものに自信がなかった。
自信がない割には、人前ではいつも強きで勝ち気であった。
決して弱いところなど見せなかった。
弱さをさらけ出すことで、周囲にどう思われるかというよりは、自らが地獄に堕ちてしまうのを見たくなかったし、そういう予測がついた。
たったひとつの道に飛び越せないほど大きな泥沼があるようなものだった。
もちろん人並みな運動神経と観察力の持ち主であるシリーには、とうていその沼を飛び越せるはずはなかった。
「クソ喰らえ!この世界はクソったれのための便器か何かなのか!?」
シリーは気が済むまでその泥沼に文句を言った後、仕方がないのでその沼に浸かり直進することを決め腹を括った。

「いいか、俺がどんな内容の覚悟を決めようと、ひとりの男が自ら進んでクソまみれになっていくのを見ている連中にとっては、視覚的精神的侵害でしかないんだ。それが分かってんならさっさと目を逸らせ野次馬が!!」
本当に強くなることはできない?

理不尽と嘘の隙間を
全力で駆け抜けられるような


本当に強い心がほしい

裏切りさえも愛せるような
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